『アメリカン・プリズン 潜入記者の見た知られざる刑務所ビジネス』という本を読みました。
記者が実際に4ヶ月、ウィン矯正センターという刑務所で働いた実体験を元に書かれた本で、民営化した刑務所が少ない資金で利益を生むためにどれだけ杜撰な管理体制が敷かれているのかを暴いています。
また、アメリカでは何故刑務所が民営化されたのか、その歴史は奴隷制があった時代に遡ることが書かれています。
本書は分厚いですが、内容は記者のレポートと民間刑務所の歴史が交互に書かれているので、それぞれを分けた分量は普通の量だと思います。
読んでいて色んな登場人物が出てくるので、小説のように誰が誰だったか忘れてしまうので、メモを取りながら読みました。そのメモの書いておくので、事前に本の内容を掴むためや見返すためにお使いください。
目次
登場人物
ウィン矯正センター
研修生
- シェーン・バウアー
著者 - レノルズ
研修生。黒人。19歳。子持ち。大学までの間仕事が必要だった。両腕に銃や刃物でついた喧嘩の傷があり、それを強さの証にしている。 - ミス・スターリング
研修生。小柄で二十代の白人女性。タッカーにクラス全員の前でからかわれてストレスを感じていた。 - コリンズワース
研修生。18歳。白い顔が茶色の髭と顔で隠れている。ADHDで無邪気。「必要があれば受刑者を殺す」と発言する。トネリコ棟の夜勤で勤務。 - ウィリス
がっしりした黒人の研修生。ノートの表紙にモンスターを落書きしている。テキサスの州刑務所に7年半入っていた。
CCAのCEO
-
デイモン・ハイニンガー
CCAのCEO。 -
トーマス・ビーズリー
CCAの創業者の1人。営利事業として刑務所を運営するのは画期的なアイデアだと思ってる。 -
T・ドン・ハットー
CCAの創業者の1人。禿頭に大きな眼鏡をかけた老人。優しい口調だが、彼にとって囚人で金儲けをすることは黒人奴隷に綿摘みをさせるようなものだった。 -
ドクター・クランツ
CCAの創業者の1人。もう会社にいない
職員
-
ミス・ブランチャード
研修責任者。三十代黒人女性。きれいにマニキュアを塗り、まつげが長い。 -
ミス・ブランチャードの秘書
最終テストの結果を全員合格するよう整えてくれる。 -
ミスター・タッカー
中年の黒人教官。刑務所における戦術部隊SORTの責任者でもある。仕事以上の事はしないくていいと考え、受刑者同士の斬りつけ合いも形式だけの注意に留めて後は知らんぷりをする。 -
ケニー
四十代くらいのぽっちゃりした丸顔の白人。教官。囚人を顧客だと捉えている。クールで超然としている。Fのつく言葉を使いすぎて不快に思った研修生が辞めたことがある。受刑者に実力行使する。その後受刑者の携帯を没収したことで別の受刑者に殴られて鼻を骨折し、病院に運ばれた。後にトネリコ棟の棟長になる。 -
ミス・ドゥーセット
50代後半のずんぐりした赤毛の研修生。子供に聖書を読ませれば犯罪が減ると考える一方でブードゥー人形に釘をさす両刀使い。娘や孫とトレーラーハウスに住むための貯金が欲しい。喘息持ちで、結局喘息の危険性を考えて辞めた。 -
クリスチャン
白人刑務官。持ち物検査で容赦しない。 -
パーカー
副所長。CCAに入ったばかりだが、コロラド州フローレンスの連邦刑務所で副所長をしていた。受刑者の腰パンや改造服を取り締まって画一化し、家畜のように扱いたい。 -
ミス・ローソン
警備部門副主任。 -
キング班長
額の後退した背の低い黒人男性。更生施設で8年働く。ウィンは5ヶ月目。22年陸軍生活をしていた。歯向かうものはすべて敵とみなし、16歳の受刑者に襲われたときはアッパーカットで顎を砕いた。 -
カウボーイ
ウィンの全米ライフル協会公認インストラクター。カウボーイ風の白人男性。武器の使用方針について講義した。襲ってきた相手は動かなくなるまで撃て、と教えた。 -
クリス
猟犬チームの責任者 -
ゲイリー
職員 -
ミス・ロバーツ
落ち着いた年配の黒人女性。郵便室に届く大量のクリスマスカードを検閲する責任者。著者が自殺を仄めかす手紙を報告しようとしたが、まともに取り合わなかった。 -
ミス・プライス
トネリコ棟の棟長。黒人女性。ドラゴンと呼ばれている。24年間ここで働いている。満足に歩けないほど太っていて、車椅子にで移動している。彼女を見ながらナニをいじった受刑者を壁に投げ飛ばした。著者が持ち物検査でスマートフォンを見つけたことを報告したら喜んだ。 -
ミス・カーター
ウィンに一人しかいないソーシャルワーカー。著者に記録の時間はまばらに書くようアドバイスした。 -
ベーグル
実名。63歳の刑務官。太っていて足が悪い。受刑者もCCAも嫌っている。物事をうまく収めるためには規則を曲げるのもいとわない。フロア係でよく著者とペアになる。 -
エディソン
白人刑務官。赤らんだ団子鼻、大柄で猪首。全身黒ずくめ。元陸軍レンジャー部隊で以前は小さな町の警察署長をしていた。当時常に武器を装着し、常に戦闘態勢だった。イトスギ棟からトネリコ棟への配属替えに腹を立てている。 -
ミス・キャラハン
実名。キイ係。著者より少し先に仕事に危険性を感じ、辞める。 -
ミス・リーヴス
主任棟長。女性。 -
チャイルズ
ウィンで20年働いている -
ミス・クロウリー
受刑者を釈放する係
受刑者
-
ロバート・スコット
実名。車椅子に乗った年配の黒人男性。12年ウィンに入っている。足の腫れを何度訴えても治療されず、最終的に両足を失った。指も失ってる。後にCCAと和解。 -
刑期短縮が取り上げられた受刑者
決まった時間外に掃除しようとして立入禁止の区域へ入った罪で刑期短縮が30日減らされた。この余計な30日を過ごすことでCCAは千ドル以上の支払いを得る。 -
チェイス・コルテス
実名。窃盗罪で、3年と3ヶ月の懲役。残り3ヶ月の時点で脱走を試み、失敗。痩せた小柄な白人で腕と顔には細かい切り傷があり、著者に水を求めた。自殺監視房にいる? -
デイミアン・コーストリー
実名。自殺監視用に使われている通常の隔離房の中にいる。自殺ブランケットとトイレットペーパー以外何も持たず、全裸。よく刑務所の待遇について苦情を出していた。自殺監視が終わった直後に自殺衝動を感じ、それを報告したが対処されず、シーツで首をくくって寝台から飛び降りて自殺した。CCAは死亡時は病院で、その時温情的に釈放されていたため、ウィンの責任では無いとした。 -
ジョニー・コーストリー
デイミアンの兄で、ウィンに移動になった事で再開できることを喜んだが、弟が自殺監視房に出たり入ったりしていた事は知らなかった。 -
マスターベーション男
自殺監視用隔離房の中にいる。著者を見ながらマスターベーションを止めず、挑発を続ける。 -
悪魔の受刑者
自殺監視房に行きたいが、定員オーバーで行けず、自分は悪魔だと言って脅す。 -
コーナーストア
37歳の黒人だが、55歳に見えるほど髪はボサボサで服はぼろぼろで顔がむくんでいた。人生の半分を刑務所で過ごしている。ニガー呼ばわりした白人と撃ち合いになった事がある。新入りが性的暴行を受けないよう守り、更生させるのは刑務所ではなく自分自身と考えている。 -
顔タトゥー
受刑者。著者親切を弱みと解釈した。点呼になるとトイレへ行き、著者を見ながらズボンの下で自慰をする。 -
フルール・ド・リス
受刑者。アヤメ型の紋章のタトゥーを入れている。 -
グレーシャツ
黒人の受刑者。20代後半。警官殺しで30年の刑、あと19年。兄が捕まりそうになったので、その証拠を集めている警官を追いかけて一人殺した。著者にイトスギ棟で上手くやるアドバイスを教えた。 -
ビッグマン
受刑者。穏やかだがそれを当然と思うと殺される。デリクが仲間にしている。 -
デリク
受刑者。黒人。警官を殺した事を全く反省していない。グレーシャツが言っていたゲイ? -
メイソン
肺に水が溜まって苦しんだが、病院に連れて行ってもらえなかった。 -
ミニ・ドレッド
短いドレッドヘアの男。著者が見る度に恐怖していた男。著者に「いつまでも、命があると思うなよ!クソッタレ!」と言って、著者の判断で隔離房に入れられる。著者が刑務所で舐められないための最初の犠牲者になった。 -
ブリック
白髪頭の愛嬌のある受刑者。著者の雑談相手だったが、若い白人の受刑者に性的暴行を加えた。
一般人
-
アンソニー
町で唯一のナイトクラブで知り合う。アフガニスタン戦争帰り。 -
ウェンディ・ポーター
デイミアンの母親。息子が死んだ事を知り、著者が盗撮したデイミアンの様子を観た事でCCAを訴えることにした
用語
-
キイ
中央の八角形のコントロール室。 -
ウィン
ウィン矯正センターの略。 -
マネーカード
グリーンドットというプリペイド式のデビットカード。 -
SORT
特殊作戦対応チーム。暴動鎮圧、人質救出の為に殺傷力の低い武器を各種携帯している。 -
所内法定
ウィンで深刻な規約違反に問われた受刑者が裁判にかけられる。正式なものではないが社内で完結させるためにある。96%は有罪になる。 -
州矯正局
コルテス脱走以来、ウィンの運営に目を光らせている。 -
イトスギ棟
一人前の刑務官としての勤務初日に配属された。 -
ACA
アメリカン・コレクショナル・アソシエーション。刑務所の業界団体
感想
民間刑務所の恐ろしさ
-
受刑者の医療費は会社の負担。出来るだけ治療したくない
- 職員の給料は抑えたい。その結果、刑務所の質が落ちる
と言うことが分かりました。THE資本主義のアメリカで刑務所を民営化したらそうなるだろうなーという気はします。
もっと衝撃的だったのは、奴隷解放後に頭のいい人たちが
「奴隷より囚人のほうが便利に使えるんじゃね?」
と思いつき、それをビジネスチャンスと捉えて形にした事です。
奴隷は
- 所有物なので健康には気を使わないといけない
囚人は
- 所有物でないので使い捨て。死んだら新しい囚人を連れてくればいい
といった違いがあり、奴隷制は無くなったものの、その後で奴隷制より更にひどい囚人貸し出し制度が生まれたのです。
この本では囚人という立場を存分に利用した酷い事例が沢山書かれています。
現在は囚人貸し出し制度も廃止され、民間刑務所に姿が変わりましたが、結局犯罪者を使った金儲けという本質は変わっていません。CCAの創業者自体が囚人貸し出し制度で儲けた人ですからね。
著者が記者だと判明した後のカタルシス
分厚い本なので途中で挫折しかけましたが、著者が記者だと明かされるパートは読んでいて楽しいと思います。最後まで本を読み切った人へのご褒美と言った感じでしょうか。
なのでこれから読む人もラストを楽しみに読んで欲しいですね。
その後どうなるのか
今アメリカってポリコレ関係で分断が深まっているじゃ無いですか。どうやら犯罪率が300%も上がっている地域もあるようで、これじゃどんどん逮捕者出ますよね。
そうなった時、また刑務所ビジネスが盛り上がる時期が来てしまうかもしれません。この分断は恐らく武装できる右派が勝つと前に記事に書きましたが、そうなると黒人差別は刑務所内に残り続けますよね。アメリカの囚人労働の歴史はまだ続くような気がします。。。
まとめ
こういう厚い本を読み切ったのは久しぶりですが、読んで面白かったです。
沢山の用語や人物が出てきて、メモを取りながら読むしかありませんでした。
正直民間刑務所の歴史やウィン矯正センターの運営関係についてはまだイマイチ理解していないです。ほぼザッと読んだので。
著者が潜入した4ヶ月の間に様々なドラマが有り、正直映画化して欲しいぐらい面白いです。映像化されたら内容の復習にもなるし。
潜入パートだけでも読む価値があるので、是非読んでみてください。
ではでは